Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)
Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)

2回目の聞香会の夜、楔の永田さんがコンプロット10を持って来られた時、その物の良さに、居合わせた人は一同息を呑みました。
木目にあまり良い反応を示さない女性方の反応も良好で、永田さんは手応えを感じたのではないかと思います。

これはル・ボナーの松本さんが、チェザーレ・エミリアーノというブランドの万年筆の空箱を加工してペンボックスにしていたものが原型になっていて、それがこんなに美しいものに形を変えてできあがったものです。
松本さんの万年筆への情熱が永田さんにインスピレーションを与え、永田さんの情熱で松本さんが動いたという、楔とル・ボナーのコラボレーション企画です。
行き付けのバー、バランザックのカウンターで、松本さんが永田さんに万年筆を入れるケースを作るべきだと熱弁をふるっておられたのが、コンプロット10誕生の始まりだと思います。
美しい木目を広い範囲で必要とするため、かなり高価になることが事前に分かっていましたが、永田さんのこだわりと熱意を理解してくれるお客様は、きっとおられると思いました。

少し変わった形は、ケースを開いた時に指を挟まないように配慮された形であり、四角いものよりも概観に変化があり、このケースをおもしろいものにしていると思います。
もともとこの形は釣り道具の毛ばりを入れるフライケースとしてあったもので、そのサイズを拡大したものです。
大きくすることにより、金具、磁石の耐久性の強化が図られているとともに、より木目を美しく取りにくくなっていて、木目の美しさにこだわる永田さんを苦しめたところです。
余程の良材でないとこれだけの大きさで、木目の美しいものが得られることはなく、どうしてもそれが価格に跳ね返ってきます。

木を組み合わせる指物(さしもの)ならコストもさほどかからず、量産も可能で、木取りに苦労することもなかったかもしれませんが、永田さんは削りだす刳り物(くりもの)にこだわり、そうでなければ自分が作る意味がないとまで言っていました。
木目が美しい、滑らかに磨かれた完成品を前にして、それは理解できるような気がしました。

木目の美しい外装だけではペンケースとしては不完全で、ペンを保護する内装も重要であることは言うまでもありません。
そこにはル・ボナーの松本さんが担当した内装があり、このケースの魅力を引き上げています。
ピッグスキンの裏革を敷き詰めた内装に可倒式の仕切りがあり、ブッテーロのベルトで固定できるようになっています。
仕切りとベルトがペンの太さに合わせて動かせるため、様々な太さのペンを収納し、固定することができます。
さらに中でペンがカタカタと動くこともなければ、向かい合ったペン同士が当たることもありません。

10本を収納することができるペンケース。
たくさん持っている人には物足りない数ですが、自分のコレクションの全てを入れるのではなく、たくさんあるコレクションの中から今一番のお気に入りを10本だけ選んで、特別なケースに入れておく。
このケースを開いた時、木のフレームの中のピッグスキンに守られた10本のペンへの愛情はさらに強くなるのだと思いました。

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨
Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):ウォールナット

好きなインク選び

好きなインク選び
好きなインク選び

当店では万年筆を買われたお客様が一緒にそのペンに入れるインクを買われることが多く、万年筆を選ぶ時と同じくらい、あるいはそれ以上の時間をかけてインクの色選びをされる方をよく見ます。

それくらいインクというのは多くの人にとって、こだわり所であり、自分の個性が発揮できるところでもあるのだと思います。
万年筆の軸の色に合わせたり、季節感を出したり、仕事でテンションの上がる色にしたりなど、様々な理由でインクの色を選ばれているようです。
そんなふうにインクの色で迷われている所を見るのは皆様のこだわりを感じることができて、とても参考になりますし、楽しい時間でもあります。
万年筆を使われている皆様にはインクの色でもっと遊んでもらいたいと心から思っています。

そんなことを言いながら、私は最近自分が一番インクの色にこだわっていないのかもしれないと思い始めました。
その時々で使っているインクの色が違いますし、全てのペンに同じ色のインクを入れてしまうため、色々な色を使い分けることもしていません。
今まで様々な色のインクを使ってきて、結局自分の答えは色にはないということが分かってきました。

私のインクへのこだわりは、色ではなくその「性質」でした。

よく伸びるインクという表現が皆様に伝わるかどうかわかりませんが、そのよく伸びるインクを私は好んで使っています。
よく伸びるインクというのは、サラサラと流れるインクというふうに言い換えることができるかもしれません。
そのようなインクはスルスルと書き味が良く、その書き味の良さを感じたいがために、私はいつも伸びるインクを使います。
よく伸びる代わりに、乾きが遅かったり、にじみが大きかったり、色がつまらなかったりしますが、そんなことは全く気にしません。
万年筆からサラサラと滑らかにインクが流れてくれることだけを望んで、よく伸びるインクを使い続けています。

インクの色を変えて「色」を楽しむ。インクの性質を変えて「書き味」を楽しむ。インクには色々な楽しみ方があるのかもしれません。

私が現在よく伸びるインクとして把握しているのは、セーラーブルー、セーラーブルーブラック、パイロットブラック、パイロットブルーブラック、パイロットブルー、そして当店オリジナルインク朔です。

画像は当店スタッフ私物インク(一部)です。

息子へ贈る万年筆

息子へ贈る万年筆
息子へ贈る万年筆

中二の息子が卒業式で送辞を読むということで先生からお誘いを受け、卒業式を見に行ってきました。
大勢の人を前にしても堂々として落ち着いていて、送辞を読み上げながら涙ぐみ声を詰まらせる「余裕」を見せる彼のしゃんと伸びた背中を見ながら、その成長にとても驚いてしまいました。

親馬鹿になりますが、彼は成績も良く、生徒会の活動でも活躍しているいわゆる優等生で、両親には似ませんでした。
わが家ではダイニングテーブルで仕事や勉強をすることが慣わしとなっていますので、彼のストイックと思えるほどの勉強量はいつも見ていましたし、その彼の直向さに私も逆に影響を受けています。
そんな息子に今までちゃんとした万年筆を贈ったことがなく、周りの人に万年筆の良さを広めようと努力されている皆様から見ると意外に思われるかもしれません。

私自身、万年筆を使う人を一人でも増やすということをライフワークとすると宣言しておきながら、自分の息子に万年筆を使わせることができていないことは非難の的になっても仕方ないことです。
しかし、自分が仕事としているものを贈ることへの照れもあって、息子を洗脳することから逃げている訳です。
その息子が志望する高校に入学した時に万年筆を贈りたいと最近思い始めました。
彼の書く量を見ていて、より書くことを楽にしてあげたいという思いと、書くことを楽しむことができる道具万年筆が、私が彼に教えることができる唯一のことだと思いました。
私は小学校高学年でプラチナプレピーを使っていましたが、その後発展していかなかったのは、書き味の良い万年筆の存在を教えてくれる人がいなかったからでした。
だから彼が使うかどうかは別にして、書きやすい金ペン先の万年筆を贈りたいと思いました。
どんなものがいいかいろいろ考えましたが、ラミー2000を思いついたとき、一番ふさわしいような気がしました。
ラミー2000はその存在がいろいろなことを物語ってくれていて、親から息子への無言のメッセージになると思ったのです。

1966年に2000年まで通用するものという目標を掲げ、企画、デザインされたラミー2000は目標通り2000年をとっくに過ぎた今でも古臭さを感じさせず、感覚の新しい若い人からも支持されています。
発売当時、黒いボディに金色の金具の万年筆が主流で、ペーパー加工された銀色の金具の万年筆などなく、かなり異端的に思われたラミー2000は全く売れなかったそうです。
それでもラミーは2000の素晴らしさを信じて辛抱強く作り続け、時代が追いついてくるのを待ちました。
今ではそんなことが嘘のようにラミー2000は現代のデザインに自然に馴染むものになっています。

ラミー2000からは、彼が仕事をするようになった時に、先を読むことや、他人に惑わされないオリジナリティを持つことの大切さ、自分が信じたことを貫く頑固さを持ち続けることを教訓として感じ取ることができると思っています。

神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」

神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」
神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」

私はいつも何か新しい世界を知って、仕事の幅と奥行きを持たせたいと思って本を読みます。
今まで本を読んで偶然知った世界が仕事の役に立ったこともありましたし、新しい世界の扉を開けることでもありました。
本を読むことは、自分への楽しみであり投資でした。
本から刺激を受けて、仕事に役立てることは皆さんも同じだと思います。

万年筆にも同じことが言える人がいるのかもしれません。
万年筆1本あればとりあえず用は足りますし、せいぜい用途別に持ったとしても、字幅を揃えて3本くらいあれば充分です。
しかし、物から与えられる刺激、インスピレーションを感じる人が、その万年筆は仕事の役に立つと思うなら、手に入れなければならない理由になると思います。
この本の著者神谷利男さんもそれぞれの万年筆からインスピレーションを与えられたこともあったのだとこの本を読んで知りましたし、万年筆から刺激を受けて良い仕事ができるということは確実にあると思います。
初めてこの本のゲラ刷りを神谷さんから見せていただいた時、写真や絵に惹きつけられましたが、ゆっくり時間をかけて読ませていただいて、その文章の私的世界は、時にはビジネス書であり、時には生き方を教えてくれる本でした。

会社の社長であり、グラフィックデザイナーであり、二人の息子さんの父親であり、夫である神谷利男という人からより良い仕事をしたいと思っている人へのメッセージだと思えるくらい、様々なことを教えてもらうことができて、もっとクリエイティブでありたいと思える刺激が受けられる本でした。
非常に凡庸な言い方ですが、この本をただの万年筆の本だと思いながら読んだ人は、その内容の深さに嬉しい驚きを覚えるでしょう。

この本には、見た事もないような珍しい万年筆や、誰も知らなかったような万年筆の知識などはありません。
そもそも神谷さんには、自分のコレクションの万年筆の、こういうところが良いなどという万年筆を批評する気持ちなどなく、様々な万年筆から得ることができた仕事にも生きたインスピレーションを本という形で私たちに教えてくれました。
より良い仕事をしたいと思っておられる方には、とても刺激になる本で、ただの万年筆の本にはない、著者の生き様から、自分たちの生き方を教えられる本だと思っています。

いつも目の前にあるものに夢中で、子供のように話がポンポン飛ぶ神谷さんに会うといつも刺激を受けますが、この本でもさらに奥深い刺激を受けました。

神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」